Vol.206     お薦めの岩波新書新刊のご紹介             山口二郎著『民主主義は終わるのか ーー瀬戸際に立つ日本』

[その他政治・社会分野]

畏敬する政治学者山口二郎先生が、このほど実に7年ぶりに掲題書を著されました(その間に対談本の類いは何冊も出版されていますが)

わが国は今、重大な『瀬戸際』に立っているという紛れも無い事実を的確に認識するために、そして、そんな状況下、私たちはいったいどうすれば良いのか? を真剣に考え行動に移して行くために、本書のご一読を強くお薦め申し上げる次第です。

(山口先生は、1958年岡山市生まれ、1981年 東京大学法学部卒業。
       東京大学法学部助手、北海道大学法学部助教授等を経て、
       1993年 北海道大学法学部教授。
       2014年〜 法政大学教授、北海道大学名誉教授。)


本書は2019年10月18日第1刷発行ですが、それからわずか2週間のうちに、その前月に発足したばかりの第4次安倍第2次改造内閣の大臣二人が実質更迭されるという極めて異例の事態が発生しました。

『瀬戸際に立つ日本』という本書の副題が一段と重く響きます。

(尚、上記異例の事態ならびに萩生田文科相の「身の丈」発言・英語民間検定試験導入見送りを受け、去る11月6日と8日に衆参予算委員会でそれぞれ集中審議が行なわれましたが、その両日共に、またまた安倍首相が質問中の野党議員に向かって自席からヤジを飛ばし、両委員長から厳しく注意されるという甚だ破廉恥な出来事が起こりました。

過去度重なる安倍首相のヤジは一国の首相として不見識極まり無く、この一事を以てしても「宰相の器」にあらざること明白であり、これまた『瀬戸際に立つ日本』の一断面と言えます。

安倍首相のヤジにつきましては、私は4年前に下記をアップしておりますが、相も変わらぬ幼児ぶり、ほとほと呆れ返ります。
こんな人にわが国の舵取りを任せていることに心底恐怖を感じます)

     Vol.168 “安倍首相の「幼児性」を憂う!
               新安保法制問題にからめてーーー“


さて本題ですが、初めに本書「あとがき」全文を以下に転記させて頂きます。

そこには、7年ぶりに新書執筆に到った経緯や目的、また『負け続けて気弱に
なった』、『夜店の営業』、『いつまで続くかわからない泥濘のような政治の危機状況の中で、疲れを感じる』など、山口先生の極めて率直な思いが記されています。


    “1993年の『政治改革』以来、私は、二、三年に一冊のペースで
    同時代の政治を主題とする新書を書いてきた。
    自分なりに、夢と希望をもって日本政治のあるべき方向を論じてきた
    つもりである。
    しかし、2012年に書いた『政権交代とは何だったのか』(岩波
    新書)を最後に、七年も間が空いてしまった。  
    この間、2014年に勤め先を東京に移し、集団的自衛権の行使容認
    や安保法制に反対する運動、さらには国政選挙における野党共闘の
    運動など、実践に身を投じてきて、しかも負け続けて気弱になった
    ことが、怠惰の言い訳である。

    かつて、丸山眞男は本来の研究と区別して、時論の執筆を夜店に
    たとえた。
    私など、夜店の営業が本業になったも同然である。
    だが、今は夜店の稼業が必要とされる時代である。
    本書でも紹介したように、欧米における民主主義の危機状況に対して、
    優れた研究をしてきた政治学者や歴史学者が、一般市民のための
    警世の書物を著している。
    日本でも、民主主義を死なせないための思考と行動のガイドブックが
    必要だと思い、この数年の実践経験を踏まえてこの本を書いた次第で
    ある。

    いつまで続くかわからない泥濘のような政治の危機状況の中で、
    疲れを感じることはしばしばであるが、民主主義を取り戻す運動に
    取り組む多くの市民と会えたことは、本書執筆の原動力となった。
    また、杉田敦、齋藤純一、小原隆治の諸氏をはじめとする
    立憲デモクラシーの会でともに活動する研究者の方々には、様々な
    示唆をいただいた。その学恩に感謝したい。
    金子勝氏、中野晃一氏の励ましにもお礼申し上げたい。
    また、岩波書店の小田野耕明氏には、原稿に対して多くの助言、提案
    をいただき、読みやすい本にすることができた。心より感謝したい。“

       2019年9月            山口二郎“

実は私は、本年5月発行の、山口先生と経済学者水野和夫先生との大変興味深い対談本である下記を読み、山口先生の新書執筆も近いのではないかと内心大いに期待をしていたところですが、期待に違わぬ展開となり一段と頼もしく感じているところです。

以下が、『水野和夫・山口二郎  資本主義と民主主義の終焉 ——平成の政治と経済を読み解く』(祥伝社新書)の「はじめに」の中の、私が山口先生のいわば決意表明と受け止めた部分です。


   “         (前略)

    2009年に始まった民主党政権はわずか三年余りで瓦解し、
    その後に時代錯誤的な憲法改正と虚妄のナショナリズムを追求する
    安倍晋三政権が登場した。
    およそ一国を統治するだけの知性を持ち合わせているとは思えない
    この政治家が、日本の憲政史上最長の政権を樹立しようとしている。
    現状は、フランス革命のギロチンによる恐怖政治やナポレオン支配の
    崩壊のあとに出てきたシャルル10世による復古王政に喩えられる。
    だとすれば、この復古王政は、民主主義を求める市民の力によって
    打倒されなければならない。

    とはいえ、日本人にそれだけの気力・知力があるかどうか、あまり
    楽観的になれない。
    この破局的な現状を放置したら、どんな惨憺たる未来が待って
    いるのか、この現状を抜け出すために何をすればよいのかを考える
    ことは、この時代に生きる学者の務めであろう。

             (後略)                “


さて再び本書に戻りますが、下記が「はじめに」の結びに記されている、本書の基本的な立ち位置です。

そしてそれに則り、第1章から第6章で、『瀬戸際に立つ』わが国の現状と展望が幅広く綿密に呈示され、終章では“民主主義を終わらせないために” として、「五つの提言」が列挙されております。

拳々服膺させて頂く所存です。
引き続き山口先生の『夜店稼業』の大繁盛をお祈り申し上げます。


    “戦後日本の民主主義がどの程度まともなものだったかについては、
    いろいろと議論はあるだろう。
    しかし、政治家は国会答弁で嘘をついてはならない、権力を利用して
    私的利益を図ったことが明るみに出れば責任を取って辞めるなど、
    最低限の常識が働いていたということはできるだろう。
    
    これに対し、安倍政治の七年間で今までの政治に関する常識が通用
    しなくなった。

    常識の崩壊を放置すれば、我々が当たり前の存在だと思ってきた
    自由や民主主義は失われる危険がある。
    政治の常識とは自由を守るために長い歳月をかけて多くの人々が
    政治権力と闘い、培ったものである。
    政治の常識を守るためにも、常識を溶解、崩壊させている原因は
    何なのかを考えることが、政治学の課題である。
    本書では、自由と民主主義の擁護という観点から、この崩壊現象
    について考察し、批判の視座を構築することを試みたい。“


        (因みに「民主主義」に関し私は昨年2月、「宗教心」に
         触れた下記をアップ致しております。
         改めてご参考に供させて頂きます。

         Vol.195 “選挙でね こんな日本に なったのよ
               ——「民主主義」に未来はあるのか?“

(追記)本稿アップの直前に、首相主催の伝統的公式行事「桜を見る会」を
    巡る安倍首相の私物化疑惑が表面化しました。
    これまた、『瀬戸際日本』を象徴する典型的な出来事と言えます。

    果たして今回も、モリ・カケ疑惑のように「逃げ切り」となるのか?
    今後の成り行きが大いに注目されるところです。

                           (完)
    

2019年11月16日

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