Vol.143 親の「幸福追求権」と、子の「幸福」 ーーー”【卵子提供出産】3年で3倍” 報道に思う
去る6月16日の朝刊各紙(共同通信配信記事)は、
厚生労働省研究班(主任研究者・吉村泰典慶大教授)の調査によれば、わが国における【卵子提供出産】は、2012年には3年前の約3倍に急増、
大半が海外での卵子提供によるもので、出産女性の平均年令は45才、
吉村教授の推計によれば、年間300〜400人が卵子提供で生まれている、と大きく報じています。
私は、わが国の【卵子提供出産】は、年間せいぜい数十名程度と想像していましたので、数の多さに大変驚いた次第です。
【卵子提供】に関しては先月、神戸のNPO法人「卵子提供登録支援団体(OD—NET)」が取組現況を発表し、“国内初の非営利卵子バンクがスタート” と大々的に報道されたところです。
OD—NETは、生殖補助医療に積極的な医師らによる民間団体「日本生殖補助医療標準化機関(JISART)」のガイドラインに沿って、子どもの「出自を知る権利」(国連の「児童の権利に関する条約」第7条———以下『7条の権利』)にも対応しながら取り組む方針を明確にしていますが、
実は上記記事によれば、海外での卵子提供により既に毎年何百人もの子どもが、『7条の権利』を実質的に行使出来ない状況で生まれていることになり、事態は極めて深刻と言えます。
(【卵子提供出産】とは、子宮には問題は無いものの卵巣機能の低下や
高齢等で妊娠が困難な女性(レシピエント)が、健康な女性(ドナー)
から卵子の提供を受けて夫の精子と体外受精させ、その受精卵を
レシピエントに移植し出産を目指すもの。
去る2010年8月、野田聖子衆議院議員がアメリカでの【卵子提供
による妊娠】を週刊誌上で公表され一躍有名になりました。
(野田さんは翌年1月男児を出産)。
私は野田さんのこの妊娠公表を受け、
の2番目に、“野田聖子衆議院議員、他人の卵子で妊娠!” と題する
思いを記しています。
文中、“彼女は誌上でしきりに【多様な価値観の許容】を訴えて
おられますが、それは飽くまで【自然の摂理に背かない範囲】に
限られるべきと私は頑に考えており、こういう妊娠にはとても
賛成できません“ と記したところです。
重い障害をもって生まれてきた子どもを育てながら、公務に奮闘
されている野田さんには、今は励ましのエールを送らずには
いられません)
一方、【精子提供】による非配偶者間人工授精(AID)は、わが国では1948年以来既に六十数年に亘り行われてきており、体外受精ぶんも合わせれば、【精子提供出産】により、これ迄に一万数千名もの子どもが誕生済みと推定されています。
それらの子どもたちの大半も、『7条の権利』とは全く無縁の存在であり、問題はこちらの方がはるかに大きいとも言えます。
加えて、わが国では生殖補助医療に関する法律が未整備である為、例えばOD—NETのように、『7条の権利』を十分踏まえて対応するとしても、大本の法律が無い以上、所詮それは不安定きわまりないものになること明白です。
一日も早い法整備が強く求められるところです。
さてしからば、法律さえ整備されれば、【卵子・精子提供出産】は本当に問題が無いのか? 私は極めて懐疑的です。
前述野田聖子さんの時には、【自然の摂理に背く】点を挙げさせて頂きましたが、生まれてきた子どもが【卵子・精子提供出産】の事実を知らされた時に受ける苦悩・ダメージ・その後の人生への影響等は計り知れません。
(今後予想される遺伝子検査の急速な普及、並びに『7条の権利』に
対する国際的な関心の一層の高まりにより、もはや子どもに対し、
【卵子・精子提供出産】の事実を隠し通すことは無理と思われます)
この辺り、昨年7月に発行された『精子提供 父親を知らない子どもたち』(歌代幸子著、新潮社)が極めて示唆に富みます。
この本は、AIDを選択した家族・医師・精子提供者らを丹念に取材した迫真のレポートで、秘密を知った時の子どもたちの衝撃等も生々しく記されており、親の「幸福追求権」と子の「幸福」との関係・せめぎあい等について深く考えさせられます。
基本は、子の「幸福」の方に重きを置いて考えるべきものと思いますが、ともあれ【卵子・精子提供出産】の決断は、慎重の上にも慎重になされるべきと考える次第です。
(尚、法律で禁止すべきと私が考える生殖補助医療は、2005年に
記しました、
Vol.22 “「死後生殖」に法の網を!!
———「生殖補助医療」に関する早期法整備を望む“
の後半に記載しています。
そこでは非配偶者間人工授精・体外受精は禁止としています)
(完)
2013年06月21日
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