Vol.133 「日・中・韓・北朝鮮」と「独・仏 そしてEU」            ーーーEUのノーベル平和賞受賞を受けて

[その他政治・社会分野]

朝鮮半島は引き続き一触即発の状況にあるなか、尖閣諸島を巡る日・中間の緊張、竹島を巡る日・韓の対立、加えて日・ロ間の北方領土問題等々、東アジアの情勢は不安定極まりません。


以下は「知の巨人」故加藤周一先生が2005年1月に記されたものですが、それから約8年、先生他界後4年、事態は明らかに悪化しており、それを反映した昨今の我が国の総保守化・右傾化の風潮を私は深く憂慮するものです。

 


    “21世紀の日本の平和は、東アジアの平和と安定から切り離して考える
   ことができない。
    
   東アジアの平和と安定の中心は、日中の信頼関係である。
   しかるに戦後日本は、その信頼関係を築くことに失敗した。
   それは日・中・朝鮮半島を、独・仏・ポーランドと比較するだけでも
   あきらかだろう。

   あらためてその失敗をつぐなうにはどうすればよいか。

   答は9条の精神の徹底であって、日米軍事同盟の強化ではあるまい。

   私はこの本の読者と共に、日本の未来が倫理的に道義に基づくと共に、
   国益についての判断が冷静で現実的であることを望むのである。“

        (『加藤周一対話集 5 歴史の分岐点に立って』 あとがき)

先生が触れられている “独・仏・ポーランド” に絡みますが、ノルウエーのノーベル委員会は先月12日、今年のノーベル平和賞を自らは加盟していないEU(欧州連合)に授与すると発表しました。


       (ノーベル賞は、ダイナマイトの発明者であるスウエーデンの
       大富豪アルフレッド・ノーベル(1833〜1896)の遺言
       と遺産を基に、1901年スウエーデンで始まりましたが、
       平和賞だけは、ノルウエーが授与主体で授賞式もオスロで
       行われます。

       これはノーベルが、当時スウエーデン国王下にあった隣国
       ノルウエーとの和解と恒久平和を願って、そのように言い残し
       ていった為です。

       私は、そのノルウエー・オスロに1973〜78年の満5年
       駐在。それもあって毎年のノーベル平和賞には強い関心があり、
       3年前のオバマ大統領受賞の折りには、高揚して、
       Vol.86 “オバマ大統領へのノーベル平和賞授与に思う ——
       ノルウエーのことなど”
を記した次第です。
       残念ながらオバマ大統領には、これまでのところ期待を大きく
       裏切られていますが)


ノルウエー・ノーベル委員会の授賞理由全文(英語)はこちらをご覧頂きたいと思いますが、私はそのなかの独・仏に係わる次の記述に特に深い感銘を受けました。

上記加藤先生の言葉と重ね合わせてみますと、深く考えさせられます。


   “独・仏両国は、かつて70年の間に3度も戦争をしたが、今や
   両国が再び戦火を交えることはとても考えられなく(unthinkable)
   なっている。

   このことは、積年の敵(historical enemies)であっても、目標を
   しっかり定めてお互いが努力し、信頼関係を築き上げて行けば、
   緊密なパートナー(close partners)に十分なり得ることを証明して
   いる。“


EUの「組織面の母体」は、独・仏両国が主導して1952年に発足させた欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)ですが、「思想面の母体」は、オーストリアの伯爵リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギー(1894〜1972)が、第一次大戦後に提唱した「汎ヨーロッパ主義」とされています。

彼の「大欧州」の呼びかけは、ヒットラーにより厳しく弾圧されますが、第二次大戦後に息を吹き返し、今や彼は「EUの父」と呼ばれています。


      (因に、彼の父ハインリッヒ・クーデンホーフ=カレルギー伯爵
       は、時のオーストリア帝国駐日大使として1892〜96年
       東京に駐在。
       この間に牛込の骨董店の娘青山光子と恋愛結婚、リヒャルトは
       東京で出生。別名青山栄次郎。
       母光子は伯爵夫人として終生をヨーロッパで過ごし、ゲランの
       香水Mitsoukoにその名を残しています)

日本人の血が半分流れている「EUの父」リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギー。

彼が残した有名な言葉に、

   “すべての偉大な歴史的出来事は、ユートピアとして始まり、
   現実として終わった“

があります。


独・仏が再び戦争をすることが “unthinkable” になることや、27カ国、5億人が一つの機構の下にまとまり、しかも、うち17カ国は同じ通貨を使うようなことは、数十年前迄は「ユートピア」(空想上の理想社会)であった筈ですが、今や紛れもない現実です。

「ユートピア」を夢想し構想することの重要性に改めて気付かされます。


ヨーロッパが産み出した「近代」という時代。

その特色の一つは、「ネーションステイト」(国民国家)の形成と、「ナショナリズム」の勃興と言えますが、さすれば、それらの止揚を目論むEUという壮大な実験は、ヨーロッパを「近代」という時代から次の「新しい時代」に移行させるものとも捉えられます。

EU内の現下のもろもろの問題・葛藤は、その産みの苦しみと言えそうですが、いずれにせよ、ヨーロッパの動向からは目が離せません。

翻って東アジア。

今必要なことは、時代の先駆者ヨーロッパの軌跡を謙虚に学び合いながら、いかにして「ナショナリズム」を超えるか、“close partners” になるか、「新しい時代」を迎え入れるか、、、、、膝付き合わせて知恵を競い合うことであると考えます。

“東アジア人よ、「ユートピア」を語り合え!” との思いや切です。


       (ところで今から半世紀前、クーデンホーフ=カレルギーの
       「汎ヨーロッパ主義」に強い興味を抱いた高校1年生が北海道
       にいました。

       16才の彼は東京の出版元トップに手紙を書き、何冊もの
       クーデンホーフの著作を入手、その思想を自らのものと
       して行きましたが、その高校生こそ若き日の畏友寺島実郎さん
       です。
       
       実はこの話しには、時空を超える驚くべき後日談がありますが、
       それにつきましては、ご自身が書かれた
       『46年前の手紙と寺島文庫』(岩波書店「世界」2009年
       7月号 脳力のレッスン87)をお読み頂きたいと思います。

       尚、前記『加藤周一対話集 5 歴史の分岐点に立って』
       (かもがわ出版 2005年2月発行)のなかには、
        加藤—寺島対話も収録されています)

                             (完)

2012年11月04日

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