Vol.104 この世は無常(その2) ——エジプト情勢に思うーー
大辞林によれば「無常」とは、
1.万物は生滅流転し、永遠に変わらないものは一つもないということ。
2.人の世の変わりやすいこと。命のはかないこと。また そのさま。
3.人間の死 です。
私が“この世シリーズ”で、Vol.41「この世は無常」を記させて頂きましたのはほぼ4年前です。
その時は何を端緒としてそれを記したかのかよく思い出せませんが、今回は昨今の中東情勢、特にエジプト情勢をきっかけに、「この世は無常(その2)」を記させて頂きます。
カテゴリー『中東関連』で記させて頂きましたように、私は1989年末から1992年末までの3年間、サウジアラビアに住んでいました。
住み始めてほぼ半年後にイラクのサッダーム・フセインがクエートへ侵攻、そのまたほぼ半年後にはパパブッシュが陸から空からイラクを徹底攻撃、、、、、「湾岸危機」と「湾岸戦争」でした。
本当に得難い経験でした。
爾来私は、自分なりの見方でずっと中東をウオッチして来ていますが、今回のむバラク大統領の命運を見るにつけ、「この世は無常」———永遠に変わらないものは一つもないーーという思いを強めています。
同じ中東で約30年前、ムバラクと同じ命運を辿ったのが、時のイラン国王・パーレビ(シャー・ハン・シャー)でした。
二人に共通するのは、アメリカの強力な後ろ盾。
アメリカのお蔭で権力を欲しいままにしていた二人が、ある日突然失墜する。
しかし、アメリカは決して二人を守らないーーーー正に「無常」です。
なぜそういうことが起きるのか?
私は、世の中がますます「弱肉強食」になっているからだと考えています。
負ければ食べられてしまうとなれば、誰だって「勝つ」ことを最優先します。
「勝つ」為には、正義も不公平も不条理も踏みにじって行くことになります。
この点に関し、映画「アラビアのロレンス」の実在モデルである、イギリス人トーマス・エドワード・ロレンス(1888〜1935)は、
“勝って約束を破るよりも、負ける方がましだ”
と語っていますが、西洋人でそういう考えの持ち主は極めて稀です。
だからこそ彼はアラブの人々から熱狂的な支持を受けることが出来たものと思っています。
(「アラビアのロレンス」の戦争に関しましては、
“イギリスの三枚舌外交について
〜パレスチナ問題の原点として“
をご一読賜ればと存じます)
翻って我が国、菅政権になって以降、再び急速にアメリカ依存が強まってきていますが、この際私たちが冷静に認識すべきは、アメリカはオバマ大統領下といえども「弱肉強食思想」が根底にあるということです。
「アメリカは永遠に我々を守ってくれる」と考えるのは全くの幻想であることに早く気づくべきと思っています。
私たちが先ず身につけるべきは「自立精神」であり、その上で『争うな、戦うな』というお釈迦様の教えであると考えています。
仏教学者の金子大栄(1881〜1976)は、
“我正しと思わば負けよ。さすれば平和あり。”
と述べ、『正しいことを正しいと主張する所に、どのくらい揉めて、争い、憎しみ合い、はては殺しあうことか』と語っていますが、全く同感です。
また浄土真宗の中興の祖である蓮如(1415〜1499)は、
“負けて信とれ”
と語っていますが、それは上記ロレンスの思いと完全に通底します。
しからばなぜ “「勝利」か「正義」か” の二者択一的状況になってしまっているのか?
その点に関し、 宗教学者の中沢新一先生(1950〜 )は、「国家の誕生」をあげておられます。(「人類最古の哲学 カイエ・ソバージュI」)
中沢先生は更に、「国家」と「仏教」について次のような洞察を述べておられ、目から鱗の思いです。
“対称性社会を否定し、滅ぼした上に誕生した国家というものが、
巨大な発達をとげつつあった時代に、仏教は権力を無化して、
それを「自然」のふところに返し、それによって権力が発生
させていた野蛮を消滅させようとしていました。
戦うな、殺すなという仏教の教えは、センチメンタルとは少しも
関係のない、巨大な文明的な課題への挑戦から出てきたものです。
そのことを最近は仏教自身が忘れてしまっているようです。“
(「熊から王へ」)
「国家の誕生」が争いの元凶と考えますと、国境を無くし、国家も無くしつつある「EU」という壮大な実験は、「弱肉強食文明への一つの挑戦」と位置づけることが出来ると考えています。
別の言い方をすれば、お釈迦様の思想が2,500年後にヨーロッパで蘇っているとも感じられ、その更なる展開は極めて興味深いものがあります。
この世は「無常」———永遠に変わらないものは一つも無いのですから。
(以上)
2011年02月07日
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