Vol.94 『恋の蛍  山崎富栄と太宰治』にからんで   ーー三井物産マニラ支店のことなど、私事ですが、、、

[その他スピリチュアル分野]

見るからに聡明そうな、うら若き日本髪美女のモノクローム写真。 

『恋の蛍  山崎富栄と太宰治』(松本侑子著 2009年10月発行 光文社)は、18才時の山崎富栄がカバーを飾っています。

私は太宰のことは余り詳しくなく、彼が心中をした相手が山崎富栄という戦争未亡人であったことも知りませんでしたが、『恋の蛍』を通じ彼女の亡きご主人奥名修一さんが戦前の三井物産社員であり、昭和19年からはマニラ支店に勤務されていたことを知り、飛び上がらんばかりに驚きました。


同書によれば、三井物産広東支店に勤務中であった奥名さんは、昭和19年9月 山崎富栄さんとお見合い、12月9日 東京で挙式、12月21日 単身マニラ支店に赴任せるも、程なく陸軍に現地召集され、翌昭和20年1月17日 マニラ北方の山岳地帯で戦死、陸軍上等兵、享年28才。

未亡人となった美容師富栄さんは、昭和22年3月 三鷹で太宰治と出会い、翌23年6月 玉川上水で入水心中、享年やはり28才、太宰は38才。

時代に翻弄され、共に28才の若さで人生を終えることとなってしまった奥名修一さん・富栄さん、そして太宰治。
何とも切なく哀れです。

私事になりますが、私の父篠田昌忠もやはり戦前の三井物産社員でした。


昭和16年12月 私の生後1ヶ月 名古屋支店から単身マニラ支店に赴任、昭和20年7月24日 やはりマニラ北方の山岳地帯で戦病死、陸軍嘱託(第14方面軍野戦貨物廠所属)、享年48才。


奥名さんのマニラ支店在勤は上記の如くわずか1ヶ月足らずだったようですが、私の父は支店長代理兼庶務課長という立場上、奥名さんとは当然交わりがあったものと思われます。


文中に、奥名さん歓迎会の模様が描かれており、当時の三輪近次支店長(文中では三田支店長、後に新生三井物産の欧州監督、取締役、北スマトラ石油開発協力社長などを歴任)が、次のような歓迎スピーチをされたと記されています。

      “古くから袖ふりあうも他生の縁と申します。
      国内外の支店から集まった我々もまた、一つの不思議な縁で
      マニラで働いております。 (後略)  “

この20年後、三輪さんのお力添えで三井物産に入社した私としては、正に感無量です。

奥名修一さんと山崎富栄さんを引き合わせたのが、私も存じ上げていた三井物産人事部の飯田富美さんであったことにも驚愕しました。
飯田さんは文中に再三登場しますが、ご本人を彷彿とさせるテキパキとした語り口は何とも懐かしく、今にも彼女が目の前に現れそうです。

それにしても著者松本侑子さんは、奥名さんの足跡を辿ってマニラのみならずフィリピン奥地の戦場にまで足を延ばされるなど、その時空を超える取材力と精緻な筆力には圧倒されます。


本書のあとがきは次のように締めくくられていますが、私はフィリピン戦没者遺族の一人として、著者の心温まるメッセージを涙ながらにありがたく受け止めさせて頂きました。


      “最後に、死後の毀誉褒貶にさらされた山崎富栄と太宰治に
      鎮魂の祈りを、奥名修一をはじめ、遠い異郷のフィリピンに
      戦い、没した約50万の日本兵に、感謝と哀悼の念を捧げる。

      二千九年九月九日               松本侑子“


時は巡り、1986年11月15日のフィリピン マニラ。


その日の午後、時の三井物産マニラ支店長若王子信行さんが社内懇親ゴルフ会の帰路、武装グループに誘拐されるというショッキングな事件が発生しました。いわゆる若王子事件です。


当時モスクワ事務所に在勤中であった私は、フィリピンに眠る私の父に、『何とか若ちゃんを助けて欲しい』と日夜ひたすら祈っておりました。

祈りは天に通じ、私の兄貴ぶん若王子さんは4ヶ月半に及ぶ監禁生活の後、翌年3月末無事解放され、その翌年の1988年夏、札幌支店長に栄進されました。

私は光栄にも若王子さんの指名を受け、モスクワから札幌へ支店長代理として帰任することとなり、88年10月末 勇躍北の大地に着任。

ところが若王子さんは、なんとその旬日前から北大病院へ入院中であり、以降オフィスに戻ること一度たりとも叶わず、結局私はその後の約3ヶ月、病床の若王子支店長にお仕えする日々となりました。


積誠院直路信行居士 1989年(平成元年)2月9日没 大腸ガン 享年55才。

終戦後65年、若王子事件から24年、私が三井物産を退職してから12年、、、、、「一つの不思議な縁」に思いを巡らせつつ札幌の地でこれを記しながら、あたかも全ては一瞬の出来事だったような、そんな不思議な感覚にとらわれています。  合掌

2010年04月01日

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