Vol.92 「科学技術の進歩」について思うこと            ーー「科学技術予算の事業仕分け」と鳩山首相施政方針演説を契機に

[その他政治・社会分野]

やや旧聞に属しますが、新政権の「事業仕分け」は画期的な取り組みであり、是正すべき点はあるものの、全体としては私は高く評価をするものです。

2011年度予算策定にあたっては、昨年と異なり時間も十分にありますので、より広範で本質に迫る「仕分け」がなされることを今から大いに期待をしています。

昨年の議論のなかでは、私は「科学技術予算の事業仕分け」について、特に考えさせられました。


最先端を行く科学者の方々が、短時日のうちにいっせいに立ち上がられ、予算削減方針に強く抗議をされました。

『歴史の法廷に立つ覚悟はあるのか?』との台詞も飛び出しました。

もとより科学技術の発展は、わが国のみならず世界中の人々にとって極めて重要であり、それに向け十分な資源を振り向ける必要があることは総論としては全く異論がありません。


しかし、科学技術が核兵器を生み出したことを端的に想起する時、その野放図な発展が問題含みであることは明白です。


特に近年、「科学技術」は、「人間の欲望」と「資本主義システム」との結びつきを一層強め、『三位一体』となっているだけに、そのいずれもが時に暴走しがちであり、制御はますます難しくなりつつあると感じています。

———人間を月や火星に送り出すことは本当に有意義なのか?

———人間の寿命が、結果としてどんどん延び続けることを放置しておいて
   本当に良いのか?

———生殖補助医療はどこまで許されるのか?

———卑近な例として、東京と大阪を1時間で結ぶリニア新幹線は
   本当に必要なのか? 

等々、大いに考えさせられるところです。


       (「科学技術、人間の欲望、資本主義システムが、三位
        一体」との点に関しましては、Vol.66 “「欲望」 
       ———このやっかいなるものと、「新しいパラダイム」“
       
 をご参照頂ければと思います)

ところで、去る1月29日の鳩山首相の施政方針演説は、マハトマ・ガンジーの「七つの社会的大罪」をひきながら、『いのちを守る』ことと、『文化立国を目指す』ことを強く訴える、歴史に残る名演説と考えています。

そのなかで首相は、「科学」について次のように言及されておりますが、私はその問題意識に強い共感を覚えます。


    “文化の国、人間のための経済にとって必要なのは、単に数字で
    評価される「人格なき教育」や、結果的に人類の生存を脅かす
    ような「人間性なき科学」ではありません。

         (中略)

    科学もまた、人間の叡知を結集し、人類の生存にかかわる深刻な
    問題の解決や、人間のための経済に大きく貢献する、そんな
    「人間性」ある科学でなければなりません“


       (マハトマ・ガンジーの「七つの社会的大罪」の中身に
        つきましては、Vol.67 “「七つの社会的大罪
        (Seven Social Sins)」———マハトマ・ガンディーの警告“
 
        をご参照下さい)

「科学技術と政府」という点に関しては、イギリスの社会学者で、トニー・ブレア政権「第三の道路線」の理論的支柱であるアンソニー・ギデンス(1938〜   )は、次のように述べており、流石と感じ入った次第です(以下は「第三の道」より)


    “危機管理とは、福祉国家を語る文脈でそうだったように、狭義の
     安全保障に限られるわけではない。また、経済的なリスクのみに
     限られるわけでもない。

    その他のリスク、たとえば科学技術から生じるリスクにも政府は
    関与すべきである。

    科学技術の進歩に一定の制約を課し、それがもたらす倫理的
    諸問題に対処することを、政府の役割の一つに数えてしかるべき
    である“

「科学技術の事業仕分け」を契機に、そして鳩山首相の施政方針演説も踏まえ、そろそろ私たちは、「科学技術の進歩」について、一度立ち止まって抜本的・網羅的に検証し直す必要があるのではないかと思っています。

首相・副首相・官房長官・文科大臣のいずれもが理工系出身という現政権において、「人間性ある科学」の具体像策定に向けての取り組みが開始され、上記私の言う「新しいパラダイム」構築に向けての第一歩が踏み出されることを大いに期待するものです。

                             (完)

 

2010年02月09日

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