Vol.86 オバマ大統領へのノーベル平和賞授与に思う         ーーーーーノルウェーのことなど 

[その他政治・社会分野]

就任後わずか9ヶ月のオバマ大統領にノーベル平和賞授与、という先週のニュースには本当に驚きました。

ノルウェー、ノーベル委員会の、異例ともいえる今回の決定に心から喝采を送りたいと思います。


ダイナマイトの発明者として知られるアルフレッド・ノーベルの遺言と遺産により1901年に設立されたノーベル賞のうち、物理学、化学、生理学・医学、文学、経済学の5賞は、ノーベルの祖国スウェーデンで選考され、授与式も毎年彼の命日12月10日に、首都ストックホルムで行われます。

しかし、残る平和賞だけは、隣国ノルウェーのノーベル委員会が選考し、授与式もその首都オスロで、同じ12月10日に行われます。

これはノーベルが、スウェーデン・ノルウエー両国間の恒久平和を願って、その様に言い残していったことに基づくものです。


そのオスロに、私は1973年秋から78年秋までの満5年間、三井物産の鉄鋼ビジネス担当として駐在しました。


初めての海外居住国ということもあって、私は人口500万にも満たない、なんとも美しいこの北欧の小国を第2の祖国と感じており、同国ノーベル委員会の毎年の選考結果も大きな関心をもって見守ってきているところです。


同委員会の選考は、「平和」の概念を幅広く柔軟に捉えていることが大きな特色で、例えば一昨2007年は地球温暖化関係で、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)とゴア(元)米副大統領に授与、2006年には、マイクロ・クレジットの創始者であるバングラデッシュのグラミン銀行とユヌス代表に、2004年には、環境保護活動家ケニアのマータイさんに、さかのぼって1979年にはインドのマザーテレサ修道女に授与等々、高い見識とメッセージ性に富むその決定は特筆に値すると考えています。


そんななか今年は、「平和」の正に核心部分において最適任者が選ばれた訳であり、一段と嬉しい限りです。


ノーベル委員会は授賞理由として、オバマ大統領が国際協調外交の強化に傑出した努力をし、国際政治の新たな潮流( ”a new climate in international politics ” )を創り出すなかで、「核兵器なき世界」というビジョンを提示し(4月のプラハ演説)、その実現に向けた取り組みを開始していること(9月の国連安保理決議採択など)をとりわけ重視したと述べています。

( “The Committee has attached special importance to Obama’s vision of and work for a world without nuclear weapons” )


オバマ大統領の眼前には、喫緊のアフガン問題、イラン・北朝鮮の核問題、積年の中東和平問題等々難問山積ですが、今回の授与は、大統領にエールを送ると共にプレッシャーをも与え、あわせ世界各国に大統領への協力を呼びかけるものと考えています。


12月10日の授与式までに、大統領が上記諸問題等をいかに前進させるか、そして当日の記念講演で何を話すか、期待は高まります。


一方で私は、大統領が大変尊敬するとされるマーティン・ルーサー・キング牧師が1964年に同じノーベル平和賞を受賞したものの、その4年後に39歳の若さで暗殺されたことを改めてふと思い出しました。

オバマ大統領の身に不測の事態が起きぬことをひたすら神仏に祈りたいと思います。

      (尚、「核兵器なき世界」に関しましては、Vol.83 “総選挙公示
       日に思う“ 
の第3項目、『新首相は、「核兵器なき
       世界」の実現に向け、先頭に立って発信・行動を!』の
       なかで、上記プラハ演説に触れておりますので、
       ご参照頂ければと思います)

さて話しは戻りますが、私のオスロ駐在2年目(1974年)のノーベル平和賞は、故佐藤栄作(元)首相に与えられ、授与式出席のためご本人がオスロ入りされました。

授賞理由は「非核3原則」の提唱と沖縄返還の実現でしたが、「佐藤さんにノーベル平和賞?」「どうして?」というのが、その時の私の率直な印象でした。


「非核3原則」にも沖縄返還にもいわゆる「密約」があったことが明らかになった今、この授賞にはあらためて複雑な感情がよぎり、一日本人としてノーベル委員会に対し忸怩たる思いを禁じ得ません。


わが国としてはそのいわば名誉挽回の観点からも、「核兵器なき世界」の実現に向けオバマ大統領と手を携え先頭に立って行動を起こすことが強く求められていると考えています。

ところで、広島・長崎両市長の1982年の呼びかけにより設立された「平和市長会議」は、被爆75周年にあたる2020年までに核廃絶を実現すべく、「2020年ビジョン」を策定・展開中ですが、その両市長が昨日、2020年オリンピックを両市に招致すべく名乗りを上げました。

両市長の時宜を得た英断を高く評価致します。


期せずして2020年は、わが国が主要排出国の参加を前提に、温室効果ガスを1990年比25%削減せんとする中期目標の最終年でもあります。


2020年、広島・長崎両市での「 “核廃絶兼温室効果ガス削減達成記念” オリンピック」開催に向け、わが国が国をあげて行動を起こすことは、ノーベル委員会の今回の呼びかけにも応える、わが国ならではの極めて有意義な取り組みと考えます。

鳩山首相の賢明なイニシアティブの下 、政府および日本オリンピック委員会他が、物心両面で両市を力強くサポートすることを切望致します。


     (尚、余談ですが、私のオスロ駐在時、後にアジア人初の
      国際刑事裁判所(ICC)判事に選任された齊賀冨美子さんが
      ノルウェー大使館に在勤中でした。
      彼女はノルウェー語の達人で、後にノルウェー大使も務められ
      ましたが、当時から麻雀がお好きで、私も折に触れ卓を囲み
      ました。
      その彼女が今年4月、判事在任のままオランダで客死され
      ました。
      あらためてご冥福をお祈り致します)

                              (完)

2009年10月12日

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