Vol.81 「【脳死】は人の死」には、いまだ社会的合意無し! ーーー「再考の府」における徹底的な審議を望む!!
[臓器移植法関連]
日本弁護士連合会(日弁連)、日本宗教連盟(日宗連)などが強い反対意見を表明していたなか、「臓器移植法改正(案)」《A案》が先月衆議院で可決されました。
私もまた、性急な国会採決に反対する私見(“「臓器移植法改正(案)」の性急な採決に反対!“ )を関係各方面に訴えましたが、衆議院では10時間にも満たぬ厚生労働委員会の審議の後、委員会としての結論を得ぬまま本会議での採決に付され、予想外の大差で《A案》が可決されてしまいました。
これ正に「衆議院の暴走」と私は捉えています。
最大の問題は、可決された《A案》は、現行法の『一部を改正する法案』と呼べるようなしろものでは全くなく、『現行法の根幹を180度変える法案』、『「死」の定義・基準を抜本的に変える法案』であることです。
現行法と《A案》の骨格を、直截に記せば以下の通りです。
現行法:「【脳死】は人の死ではない」を基本とする。
——たとえ脳の全機能が不可逆的に停止しても、心臓が
動いている限り、その人はまだ生きている。
従って、もしその人から臓器を摘出すればそれは
殺人罪・傷害罪にあたる。
但し、【脳死】になったら自分の臓器を提供したいという
意思表示をしている人に限っては、その献身的な善意を尊重し、
【脳死】段階でその人は死亡したものとし、動いている心臓を
含む臓器の摘出が許される。
(尚、臓器提供可能者は、民法961条「遺言能力」の規程に
従い、15歳以上のみ)
《A案》:「【脳死】は人の死」を基本とする。
——脳の全機能が不可逆的に停止すれば、たとえ心臓が動き
体が温かくても、その人は既に死亡しているのであるか
ら、心臓を含む臓器の摘出が許される。
但し、脳死臓器提供をしたくないという意思表示をしている人に
限っては、【脳死】となっても、心臓が動いている限り死亡とは
せず、臓器摘出も許されない。
(尚、臓器提供を拒否する意思表示が出来るのは、上記同様
15歳以上となる筈)
(【脳死】判定・臓器摘出には家族の同意を必要とする点は、現行法・
《A案》とも全く同じ)
上記のように、現行法と《A案》は、「【脳死】の位置づけ」が全く異なります。
そして、正にその点が、1990年に設置された「脳死臨調」や、その後の長期に亘る国会審議の最大の争点でした。
そして最終的に、「【脳死】を人の死とする社会的合意は無い」という国会の判断に基づき、「【脳死】は人の死ではない」ことを根幹とする現行法が1997年に制定されたという経緯があります。
この点、欧米諸国では「【脳死】を人の死」とする明確な社会的合意が形成されており、米国・カナダ等では、その旨の法制化もされています。
「死生観」、「死の受け止め方」が、文化・伝統等の違いもあって欧米諸国とわが国とでは、全く異なっていると言えます。
(もっともここへ来て欧米諸国でも、「【脳死】は本当に人の死なのだろうか?」という問題提起が一部でなされ始めていますが)
『わが国でも欧米同様、子供への脳死移植が出来るように
して欲しい!』
『欧米で出来ることがどうしてわが国では許されないのですか?』
という訴えは、しごく人道的に聞こえます。
しかし、ここで冷静に考えるべきは、「【脳死】を人の死とする社会的合意の有無」であり、その点を無視したまま、『欧米同様の移植』を求めるのは、著しくバランスを欠く利己的、近視眼的要望と断ぜざるを得ません。
現行法審議中の1997年、心臓内科の泰斗渡部良夫博士は、「国会議員への10の質問」を投げかけられました。
その第9番目の鋭い質問は次のようなものでした。
“あなた方は移植医療の短期的利点———目の前の患者さんが何人
救える、延命できるーーーよりも、それが倫理、社会的秩序、
人類の文化に与える長期的悪影響のほうが、遙かに大きいことを
認識できないのですか?“
《A案》が昨日から参議院で実質審議入りをした今、私も渡部博士にならい、国会議員の方々に次のような質問を投げかけたいと思います。
“あなた方は、わが国でも「【脳死】は人の死とする社会的合意」が
形成されているとお考えですか?
少なくとも現行法制定時点では、「そのような合意は無い」と
いうのが国会の判断でしたが、あなた方はその後の10年余で
合意が出来上がったとお考えですか?
もしそのようにお考えだとすれば、その根拠は何ですか?
あるいはひょっとして、目の前の患者さんの命を救う、延命
させる、渡航移植を回避する、ためであれば、「社会的合意
の有無」などは、たいした問題ではないとお考えですか?“
「再考の府」、「良識の府」においては、徒に感情に流されることなく、また「暴走衆議院」の採決結果に惑わされること無く、本質を見据えた冷静沈着な審議と大局的判断を議員各位に強く求めたいと思います。
尚、衆議院における採決にあたっては、共産党を除く各党は党議
拘束を外し、議員個人の判断に委ねました。
その結果、政党別の《A案》賛成者は次の通りでした。
自民党 : 約6割
民主・公明両党 : 約4割
共産・社民・国民新: 皆無
ひとり自民党だけが、過半の所属議員が《A案》に賛成したという
事実には、いろいろなことを考えさせられます。
私としては、この一事をもってしても、やはり「政権交代が
必要」との思いを一段と強めています。
(完)
2009年07月01日
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