Vol.77 「臓器移植法改正(案)」の性急な採決に反対!

[臓器移植法関連]

WHO(世界保健機関)が来る5月の総会で、渡航移植を規制する指針を決議する見込みであることを受け、国会は「臓器移植法改正(案)」を5月中に衆議院本会議で採決する方向へ急に走り始めました。

改正の最大の狙いは、現行法では認められていない15歳未満の子供への脳死臓器移植(中心は心臓移植)を可能にすることにあります。


たしかに、国内では移植が受けられない為に、15歳未満の子供が1億円近くもかけて渡航移植をするケースが後を絶ちません。

『国内で移植が受けられるよう一日も早く法律を改正して下さい!』、『WHOの動きもあり、もはや一刻の猶予も許されません!』という、ご両親・関係者の切なる訴えには心を動かされます。

がしかしここは、徒に感情に流されることなく、移植を受ける側に加え、臓器を提供する側にも等しく心を向けながら、かつての「脳死臨調」の激しい議論や現行法制定に至る迄の長期に亘る国会審議等を想起し、慎重の上にも慎重に対処すべきと考えます。


さて、「脳死臓器移植」とは、脳という体の一器官が、その全機能を停止した(「脳死」)と判定されたことをもって、その人は「死亡した」とする考え方——即ち、『脳死は人の死』とする考え方——に基づくものですが、この考え方によって、心臓移植は晴れて合法化されることになります。

これに対し、『(たとえ脳の全機能が停止しても)、心臓が鼓動し体が温かいうちは、その人を「死亡した」とはしない』というのが、古来伝統的な考え方です。

そしてその考え方に立てば、「脳死移植」は「生体間移植」と同じになり、心臓移植は殺人罪に問われることになります。


欧米人は、デカルトの心身二元論の影響もあってか、『脳死は人の死』という考え方をさほど抵抗無く受け入れており、脳死臓器移植が急速に進みました。

一方わが国では、上記伝統的な考え方も根強く、脳死臓器移植は立法化困難な状況が続いていました。

そんななか、対立する二つの考え方に橋を架けるものとして、『臓器提供者の意思を尊重すべし』という考え方が打ち出され、現行法はそれを根幹として成立した次第です。


具体的には、脳死を一律には人の死としないものの、「『もし脳死と判定されたら臓器を提供したい』という書面による意思表示がなされている場合には、その意思を尊重し、その人を脳死時点で「死亡」と見なし、臓器を摘出し移植出来る」というものです。

   (尚、この考え方に立てば、同じ脳死者でも臓器提供の意思の有無
    によって死亡時期が異なるーーー意思表示をしていた脳死者は
    脳死時点で死亡とされ、そうでない脳死者は心臓が停止するまで
    死亡とされない———ことになり、それは本来は許されない考え方
    と私は考えています)


さて、民法第961条は、『15歳に達した者は、遺言をすることが出来る』と定めています。逆に言えば「15歳未満の子供の意思表示は、法的には無効」ということであり、このため、意思表示を必須条件としている現行法下では15歳未満の子供からの臓器摘出・移植は出来ないことになる訳です。

従って、15歳未満でも脳死臓器移植を可能にするためには、『意思表示』を必須条件から外す、即ち、『脳死を一律に人の死とする』ことに変える必要があります。

しかしそれは、現行法の根幹を変えることであり、制定までの経緯等を勘案すれば、国会内の短期間の審議だけでそれを行うのはいかにも乱暴と考えます。

私が、“改正(案)の性急な採決に反対!”と訴える所以です。


さてさすれば、本件いかにすべきなのか?


私は、日本宗教連盟(「日宗連」)が以下の意見書のなかで提案をしているように、「第二次脳死臨調」を早急に設置し、わが国でも今は、『脳死は人の死』とする社会的合意が成立しているか堂かを求め、総合的に議論、検証することが不可欠と考えています。


以下が去る4月17日付けの日宗連意見書全文です。

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          臓器移植法改正問題に対する意見書

日本宗教連盟は、教派神道連合会、全日本仏教会、日本キリスト教連合会、神社本庁、新日本宗教団体連合会の五団体で構成され、これまで脳死・臓器移植問題をはじめとする生命倫理の問題に関して、諸宗教共通の課題として取り組んでまいりました。
このたびの「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)改正をめぐる諸問題に対し、宗教者の立場から以下のとおり意見を表明いたします。

 臓器移植法が施行し約12年となりますが、心臓が動き、温かい血液が循環する人間の身体を「人の死」と見なすことを前提としている移植医療に対して、多くの国民が今も疑問と不安を抱いております。
この問題は個々人の死生観と深く関わることから、「本人の書面による意思表示」は、脳死・臓器移植に欠くことのできない絶対条件であると思料いたします。
また、脳死段階での小児からの臓器移植については、より厳格な脳死判定基準の導入、被虐待児を対象としないなど大人とは異なる検証システムの検討が急務であると考えます。

 こうした課題点を踏まえれば、わが国の脳死・臓器移植が直面している諸問題を解決していくためには、医学、法律、哲学、宗教、倫理などの専門家による総合的な検討とともに、広範な社会的議論に基づく意見集約が急務であると考えます。
本連盟は、「第2次臨時脳死及び臓器移植調査会」が早急に設置され、脳死小児からの臓器移植等の問題について、慎重に審議されることを求めるものです。

 脳死・臓器移植は、他者の重要臓器の摘出を前提とする限り普遍的な医療とはなり難く、あくまでも緊急避難的な治療法と言わざるを得ません。
臓器移植法の改正は、国民一人ひとりの死生観に及ぼす影響が大きいことから、問題点を残したままでの採決は、将来にわたる日本人の死生観の形成に禍根を残すものとの危惧の念を禁じえません。偏に慎重なる審議をお願いするものであります。

                   平成21年4月17日

                   東京都港区芝公園四丁目7-4明照会館内
                   財団法人  日本宗教連盟
                   理事長   矢田部 正巳

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こと「生と死」に関する限り、日宗連という、わが国における神道・仏教・キリスト教教団の殆ど全てを網羅している組織の意見は極めて重いと考えます。

国会は性急な採決に走ること無く、上記意見書を厳粛に受け止め、的確な対応をとることを強く求めるものです。

尚、私はカテゴリー「臓器移植法関連」の下、これまで以下のような私見を記して来ております。併せご一読賜れば幸甚に存じます。

Vol.4 臓器移植法の見直しに思う    (2004年1月1日)

8 臓器移植法の「改正(案)」に反対 (2004年3月1日)

19 「脳死」は「人の死」にあら「ず!! (2005年3月1日)

34 臓器移植法改正問題に対する日本宗教連盟の意見書 全文
                      (2006年12月8日)

40 臓器移植法改正問題に関する日本宗教連盟要望書 全文
                      (2007年4月2日)

59 宗教法人「大本」の「臓器移植法改訂に関する要望」ご紹介
                      (2008年6月5日)

                         (完)

2009年04月22日

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