Vol.57「この世」と「あの世」(その3)ーー”「この世」と「あの世」はひとつながり” という捉え方を再び!

[「この世」シリーズ]

本来ひとつながりである「この世」と「あの世」が、分けられ、挙げ句の果て、
“「あの世」は存在しない” とまで考えられるようになったのは、近代以降のことです。

長い人類史上にあって、「近代」を特徴づける最大のものは、科学技術の驚異的な発展と言えますが、発展の出発点は、デカルト(1596〜1650)が提唱した「還元主義」という手法であることは間違いありません。


「還元主義(要素還元論)」とは、ものごとをそれを構成する部分・要素に分けて調べ、理解するという手法であり、「部分の総和は全体と等しい」という想定に基づくアプローチですが、その手法の発達のお陰で、近代人は、それ以前の人々が夢想だにしなかったような高度科学技術文明を手に入れました。


しかし私は、現下の高度科学技術文明には、今や暗い大きな蔭が射し始めており、世界は破滅の危機に瀕していると感じています。

破滅は次の三つの「破壊」によって引き起こされるものと想像しています。

    (1) 人の心の破壊
    (2) 地球環境の破壊
    (3) 核による破壊


この三つは一見別物のようですが、実は密接に関連しており、いずれも【科学技術は万能】という思い上がった思想の副産物と言えます。


一方、「破壊」の顕在化につれ、科学の世界では、「行き過ぎた還元主義」の問題点も認識され始め、「全体を部分・要素に分けると正しく理解出来ない」、「部分の総和は全体と異なる」という考え方が今や主流となり、いわゆる「複雑系(Complex system)研究」が一大ブームになっています。

ノーベル物理学賞受賞の江崎玲於奈博士は、この点に関連し次のように述べておられます。


    “20世紀にノーベル賞受賞対象となった主要な研究成果を見ると、
    還元論的な手法で創造性が発揮されてきた傾向が強い。

    還元論に対して、組織化された全体に意義を求める解析手法を
    「全体論」と言う。例えば医師が患者を診断する場合、個別の器官
    だけでなく、体全体をシステムとしてとらえて処置するやり方だ。

    21世紀は全体論の時代だ。
    人類が直面する環境や資源・エネルギーなどの問題は全体論の
    アプローチでとらえるべきだ。“

           (日経産業新聞「創造委員会」のサイトより)

また、私が師と仰ぐ(故)河合隼雄先生は、デカルトの心身二元論を念頭に、『人間の存在を精神と肉体に分けてしまうと、“魂”が消え失せてしまう』旨述べておられます(Vol.21“「この世」と「あの世」——魂のこと、輪廻転生のこと”をご参照下さい)

その河合先生は、1995年3月、アメリカのテキサスA & M大学で、フェイレクチャー(世界の著名ユング心理学者を招いての連続講義、毎年一回)をされましたが、そのなかで次のように語られました。


    “近代科学は「もの」に対して、機械的なメカニズムをもった
    ものに対して、有効でありますが、それは生命あるものを
    全体として捉えるのには適切ではありません。
    そこで、われわれとしては、人間を全体として理解するための
    新しい科学が必要だと考えます。“

          (中略)

    “私は自分の考えていることを「人間の科学」として提示しま
     したが、あんがい、人間も物も区別することなく、全体を
     カバーする新しい科学が生まれ、それは限りなく宗教に
     接近してゆく、そして、その際に私が述べました華厳などの
    仏教の考えが役立つのではないか、と予感しています。“

           (中略)

    “「新しい科学」は論理的整合性をもった知識体系をもとうと努力
     しないのではないか、と思ったりしています。“

                   (「ユング心理学と仏教」より)

 
    
三つの「破壊」に直面している近代文明。


世界を破滅から救う道は、近代以降、【部分・要素に分けて】理解してきた事象を、【分けず、全体のまま】捉え直し対応することであると確信しています。

先ずは、人間と自然とを再統合することから出発すべきですが、世の中も、「この世」と「あの世」に分けず、ひとつながりとして捉え直すこともまた極めて重要と考えています。

尚、『世の中には「この世」しか存在しない』と断定してきた近代科学に対し、最先端の物理学者である(元)ロンドン大学物理学教授ディビッド・ボームは、『物質的な宇宙の背後に、目に見えない宇宙が存在する』とする“ホログラフィー宇宙モデル”を提示しましたが、これに付きましては、”「この世」と「あの世」(その2)”で紹介させて頂いております。
                           (完)


   
   (追記)上記河合隼雄先生に関しましては、以下の二つでも、やや
       詳しく記させて頂いております。 ご参考に供します。

     (1)Vol.49 河合隼雄先生のことーー「ユングを超えた
        大仏教者」

     (2)Vol.53 『こころの時代なのか』ーー年頭にあたって、
        河合隼雄先生の14年前のメッセージをあらためて

                                
                                以上

    

2008年04月15日

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