Vol.56 イラク戦争満5年に思うーーー「憎しみ」と「怨み」の滅却を

[中東関連]

去る3月20日、イラク戦争は開戦満5年を迎えました。


私は、2006年秋のアメリカ中間選挙の後、“イラクの現状に思う” と題し、その時点での思いを記させて頂きましたが、爾来ほぼ1年半、事態は何ら進展せず、
イラク人死者は一説には10万人を超え、米兵死者も4千人を突破、殺戮の連鎖は
一向に止む気配がありません。


一方、我が国においては、イラクに米軍がまだ16万人も駐留しているという事実や、航空自衛隊がクウェートを拠点にいまだに危険な輸送活動を行っているという事実さえ、ふと忘れるくらい、イラクや中東全域に対する関心が、メディアも含め低下してきています。

しかし、この5年間で、人々の「憎しみ」と「怨み」のマグマは、イラクのみならず中東全域で確実に高まってきており、大きな地殻変動が起きていることを的確に感知しておく必要があると考えています。


おりしも今年は、イスラエル建国・第1次中東戦争勃発から満60年、その年に難民キャンプで生まれた子供が、同じキャンプで今年還暦を迎えることを思う時、60年前の出来事は、パレスチナの人々にとっては、まさに「アル・ナクバ(大災厄)」であることがよく理解できます。
(尚、イスラエルの建国に至る経緯などに付きましては、Vol.9“イギリスの三枚舌外交について〜パレスチナ問題の原点として” をご参照下さい)

このまま行けば、いずれ第5次中東戦争は避けられないという思いを強めていますが、第4次までと異なり、第5次戦争では、

   (1) イランも当事者として直接参戦すること
   (2) イスラエルの核兵器使用が現実的になること

が想定され、中東全域が壊滅してしまうものと思われます。


9.11テロの直後、私の心の師である梅原猛先生が、もう一人の師である山折哲雄先生との対談のなかで次のように述べておられます

  “お釈迦様は自分の国が滅ぼされて、一族も殺されて、アメリカが
   同時多発テロで受けたよりももっと大きな痛手を受けています。
   当然強い怨みがあるはずなのに、十二因縁の思想で、その憎しみの
   連鎖を絶った。
   キリスト教対イスラム教の対立が激化するにつれて、この仏教の
   憎しみの連鎖を絶つ思想に学ばなければいけないと思う。“

          (月刊「現代」2002年1月号 『反戦争論』)


そのお釈迦様は、「怨み」に関し次のように述べておられます。

  “実にこの世においては、およそ怨みに報いるに怨みを以てせば、
   ついに怨みの息むことがない。
   堪え忍ぶことによって、怨みは息む。“

  “怨みは怨みによっては決して静まらないであろう。
   怨みの状態は、怨みの無いことによって静まるであろう。“

         (『ウダーナヴァルガ(感興のことば)』—中村元訳)


中東の地に生まれ、同じ「旧約聖書」を経典とするユダヤ教・キリスト教・イスラム教のいわば「一神教三兄弟」、これまでの人類の進歩、特に近代以降の科学技術文明の驚異的発展は、その一神教に負うところ大なるものがありますが、今やそれが世界を破滅に導かんとしています。

願わくば「経典の民」が、破滅の前に、心静かにお釈迦様の教えに耳を傾け、ここで踏みとどまってくれることを切に祈るものです。

                           (完)

2008年03月26日

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