Vol.30 「生殖補助医療」に関する早期法整備を望む(その2) 〜向井亜紀・高田延彦ご夫妻の「代理出産」に係わる東京高裁決定を受けて〜

[その他生命倫理関連]

私がこの場に、“「死後生殖」に法の網を!! 〜「生殖補助医療」に関する早期法整備を望む〜”を掲載しましたのは丁度一年前でした。
しかし法整備はその後も遅々として進まぬなか、去る9月29日東京高裁(南敏文裁判長)は、上記の抗告審で首をかしげざるを得ない決定を下しました。


本件の概要は以下の通りです。

タレントの向井亜紀さんは2000年に子宮摘出手術を受け、子供が産めなくなりました。

そのため夫の元プロレスラー高田延彦さんとの受精卵を移植する代理出産(ホストマザー)を米国女性に依頼、2003年にその米国女性から双子の男児が生まれました(上記コラムに記しましたように、我が国の産科婦人科学会は「代理出産」を禁止しており、産科医がルール違反をしない限り国内では代理出産は出来ません)


向井さんは品川区役所に双子の男児を自分の子供とする出生届を提出しましたが、区役所は「実際に出産をした女性を母とする」という法務省の見解も踏まえ、その出生届を受理しませんでした。

そこでご夫妻はその決定の取り消しを東京家裁に申し立てましたが昨年11月に却下され、東京高裁に即時抗告をしていたものです。

高裁は、ご夫妻が『法律的な親として養育することが子供の福祉に最もかなっている』ことを主旨に、東京家裁の決定を取り消し、品川区長に対し出生届の受理を命じました。


高裁の決定を受け、向井さんは「向井亜紀オフィシャルウェブサイト」上で、『私たちに、司法という場にも、理解を示してくださった方がいたことを大切な支えとし、より丁寧に暮らしていきたい』(2006年9月29日「一番星へ」より)との感謝の言葉を述べ、全国の沢山の方々からお祝いと激励のメッセージが寄せられています。


ご夫妻のお喜びの気持ちは十分理解出来るところです。
いわば【地獄で仏】のご心境かと思います。
私はそうしたご夫妻のお気持ちを批判したり否定するものでは全くありません。


が、しかし、私はこの東京高裁の決定にはやはり強い違和感を覚えざるをえません。
それは、この決定には自然の摂理・生命の尊厳といったことに対する洞察と優しい眼差しが欠けていると感じられるからです。

もちろん、既に生まれてしまっている子供が法律的な不利益を受けるようなことは絶対にあってはなりません。

しかし、判決で言う『法律的な親として養育することが子供の福祉に最もかなっている』は、これまでの代理出産のケース同様、その子供を養子にすることでは不十分でしょうか? 他人の胎内に10ヶ月間宿っていた子供を、「実の子」にせねば解決がつかないことでしょうか? 

大いに考えさせられます。

本件もまた「死後生殖認知訴訟」同様、最高裁の判断を仰ぐべき事案と考えます。


(尚、私は、「代理出産—養子縁組」を容認・推奨するものでは全く無く、冒頭のコラムに少し詳しく記しましたように代理出産そのものに反対の立場であり、「代理出産—養子縁組」は飽くまでも法律未整備な現時点での妥協的解決策と考えています)

際限無い人間の欲望と、日進月歩の医療技術、それらに商業主義が結合したこの時代、放置すれば生命操作・生命の人工化はとめどなく進行すると考えられます。


宗教が、人間の欲望に歯止めを掛ける役割をなかなか果たせなくなっている現代、唯一の頼りは法律と言えます。

「代理出産」を含む生殖補助医療全体をカバーする法律が一刻も早く整備されることを改めて強く求めるものです。
                                (完)

2006年10月02日

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