Think Global, Act Local ~レスター・ブラウン氏と一橋植樹会

[國持重明]

誤解を恐れず敢えて言えば、われわれ人類にとって残された最大且つ根本の問題は環境だけである。

この次元の話になると首相の靖国参拝問題、近隣諸国との竹島・尖閣諸島・東シナ海の資源を巡る問題などはすっかり霞んでしまう。

人間がかかわることは人間の間でどうにかなるだろうが、自然は人間の思惑だけではどうにもならない面を持つからである。


私は2年ほど前から一橋植樹会という小さなボランティアサークルに属し、母校のキャンパスの緑の環境保守保全に老いらくの汗を流している。

一橋大学のマスタープランを機軸とし、この会の会員である卒業生、教職員と現役学生が月に一度、植生管理学の専門家の陣頭指揮の下、力を合わせて現場作業を継続している。


武蔵野の面影が残るキャンパス100年の森と自然環境を確実に次世代へ伝えていくための草の根活動だ。

活動資金はこれまで全て会員からの年会費と同窓会からの支援金に依っている。
この作業には毎回ざっと70人の会員が参加して既に3年続いている。
作業の後、老若男女が缶ビールでお互いに労苦をいたわりつつ歓談し、さらに新しい交流の輪が広がることも結構楽しみだ。


この一橋植樹会が縁となって去る5月下旬一橋大学の招聘で来学された環境問題の世界的権威レスター・ブラウン氏の謦咳に接する機会を得た。

1980年頃、同氏の第一作「地球29日目の恐怖」(ダイヤモンド社)に遭遇し、日本の経済成長に冷水を浴びせる警告にショックを受けたが、その後次々と出版された同氏の書物は全く読んでいなかった。


今回極めて具体的な数字をあげて広い視野で地球環境悪化を証拠だてた熱弁に改めて心打たれた。

ブラウン氏の憂いに満ちた眼に遠くギリシャの哲人を垣間見る思いがした。
同氏は根本問題として人類が生き永らえるための新しい経済を構築する必要性が未だ広く認識されていないし、また殆どの国でそうした経済の構想もまとまっていないことを心配していた。


誕生して46億年も無事に存続してきた地球そのものを存亡の危機に陥れているつぎのような現象が俎上に載っていた。

即ち森林減少と土壌浸食、地下水位の低下、熱波の襲来、漁業資源の崩壊、砂漠の拡大、放牧草地の荒地化、珊瑚礁の死滅、氷河の融解・海面上昇、巨大暴風の発生、動植物の種の消滅、さらに2030年前後に予想される石油生産の頭打ち(ピークオイル)等々である。


これら諸問題は地球規模での爆発的人口増加を背景に直近わずか50年の年月で、人類が物質的、経済的豊かさのみを求めた(ブラウン氏のいうプランA)浪費型経済の結果であり、近未来人間社会の破壊、破滅を避けるためには、人類挙って決意し持続可能型経済(同上プランB、プランB2.0、エコ・エコノミーともいう)へのパラダイムシフトが不可欠だと続ける。

そして、エコ・エコノミーを実現するために環境税や新エネルギー産業の育成に関し、具体的な試算と提言を試みる。
ここが正にブラウン氏の真骨頂ではあろうが、紙面と本稿の趣旨から詳述は他に譲る。

このブラウン氏の提唱に異論を挟む人はまず無さそうである。

でも分っているがやらない、やれないという人が多いだろう。
笛を吹いても踊らないのは、未だに古い経済に未練のある人も多いためなのかもしれない。

しかし大事なことは、このような危機に直面している今日、われわれは現状を素直に認識し、パラダイムシフトへ勇気をもって踏み出すことだろう。

国や政府レベルの対応を座して待つのではなく、どんなに小さなことでも新しい経済構築に直結する具体的な目標設定とその実行実現努力が求められているのだ。


再び話を一橋植樹会に戻す。


大学と一橋植樹会は今回サトザクラ(普賢象)の若木を一本用意し、ブラウン氏に記念植樹をお願いした。

植樹の後の関係者レセプションの席上ブラウン氏から『一橋植樹会のような、卒業生、教職員、学生の3者一体となっての環境整備保全の活動は前代未聞であり、素晴らしいことだ。私もこの会の会員にして貰いたい』との申し出があった。ブラウン氏から受け取った葉書き大の紙片には、直筆で次のような申込の一文がしたためられていた。


 Now that I have planted a tree, perhaps I could become a member of the tree planting association.
                           Lester R.Brown
                           May 22, 2006

地球全体の環境問題の権威の入会を歓迎する一方、地球の片隅の小さなわれわれの活動がこんなにも高く評価されたことを同僚共々素直に喜んだ。


そして、100の論議より1つの実践、矜持と自信をもってこれから更に多くの一橋植樹会(IkkyoShokuju-kai・・・Hitotsubashi tree planting association)会員を募り、彼等と共に地に着いた活動に努める覚悟である。

また環境問題についても、もっと勉強 しなければと気持を新たにしている。

 Think Global, Act Local.  

                    國持重明(一橋植樹会副会長)

一橋植樹会ホームページ
http://jfnsites.mercury.ne.jp/circle/shokujukai/index.php

2006年06月06日

≪ Vol.27 今こそ「首都機能移転」の決断を ~国の形を変える「手段」として | TOP PAGE | Vol.28 この世の「使命」 ≫