Vol.26 富山県射水市民病院の人工呼吸器外し事件に思う

[その他生命倫理関連]

延命治療・終末期医療に関する法律が未整備のなか、私たちに極めて重い問いを投げかける事件がまた発生しました。

今回のケースは、治療を中止することが許される条件として1995年に横浜地裁が明示した内容(「東海大学安楽死事件」に対する判決)を完全には満たすものでは無さそうです。
しかしかといって、当該医師を直ちに殺人犯扱いにするのもかなり乱暴な印象です。

私は昨年秋の「死後生殖認知訴訟」に対する東京地裁判決を受け、「生殖補助医療」に関する早期法整備を強く訴えましたが(本コラムvol.22ご参照)、「延命治療・終末期医療」に関しても、現場の混乱と苦悩を軽減するために、一日も早く法律が整備されることを切望するものです。


とうも昨今我が国では、お金・経済に関わることには、問題発生後かなりスピーディーに立法措置が講ぜられるものの、経済以外の問題に対しては立法府・行政府の動きがいかにも遅いと感じています。

今の世の中、お金にまつわる事柄が国民の最大の関心事であることの現れでしょうが、経済以外の領域に於いて健全なルールが整備されていなければ、いずれそのツケは必ず経済領域に回ってくるものと考えます。

特に「命」に係わる領域は、放置した場合の長期的悪影響が極めて大きいと見られるだけに、遅滞なく着実に法整備を進めて行くことが社会の持続性という観点からも必要不可欠と考えています。


ところで私は、瀬戸内寂聴さんのお勧めにより数年前から【日本尊厳死協会】の会員になっています。

不治の病で死期が迫っている場合にどうして欲しいかを「尊厳死の宣言書」(リビング・ウイル)に署名する形で明確にし、そのことを家族に伝えると共に「宣言書」(日本尊厳死協会会員証)を肌身離さず持ち歩いています(因みに私は、このコラムで何度も記していますように「脳死臓器移植」に断固反対であり、尊厳死協会の会員証とともに【人類愛善会】発行の「ノン・ドナーカード」も一緒に持ち歩いています)


今回の7名の患者さん方が、もし尊厳死協会に加入されていたら、ご家族も医師も病院もここまで苦しまれずに済んだかと思いますと、誠に残念です。恐らくは皆さん、尊厳死協会のことなどご存じなかったのではないかと想像しています。


さて、その日本尊厳死協会は、先年来「尊厳死の法制化」に精力的に取り組んで来ております。しかし前途は多難、法制化までには相当な紆余曲折があるものと感じています。

「脳死臓器移植に反対」という点で、私のいわば同志の方々も、リビング・ウイルまでは容認するものの、「尊厳死の法制化には反対」という方が大多数です。
また、私の知る限り、宗教界もおしなべてかなり慎重です。
法制化が「命の切り捨て」に繋がりかねないという懸念を払拭出来ない、というのがその最大の理由です。

現行概念のまま「尊厳死」が法制化されるのは容易ではないと思われます。

そういう状況下、不治の病で死期が迫った場合、徒らな延命治療はどうしてもやらないで欲しいというお考えの方は、先ずは日本尊厳死協会へのご加入をお勧めします。
いざという時にご家族が困られないためにも。(尚「宣言書」の全文は、このコラム"vol.2「日本尊厳死協会」について"に記載してあります。入会金なし、年会費は3,000円です)


一方で私は日本尊厳死協会に対しては、今回の事件も一つの契機に、会員の大幅増大に向け柔軟かつ大胆な発想と行動を改めて要請したいと思います。

厚労省の2003年の世論調査によれば、痛みを伴う末期状態では、単なる延命治療はやめた方がよい、やめるべきという考えの人は、7割を超えています。

その割には、尊厳死協会の会員が全国でたかだか10万人レベルにとどまっているのは不思議な気がしますし、「協会の努力不足」と言われても仕方がないと思っています。
もちろん尊厳死法制化に向けての諸活動は極めて大切ですが、並行して会員を大幅に増やすことにも、もっともっと意を用いるべきと考えます。

会員増大の為には、新聞やテレビ、インターネットなどを通じた訴求力あるダイナミックな広報・広告活動も不可欠でしょうし、例えば年会費に関しては、減額・免除する範囲を明示的に思い切って拡大したり、入会初年度は年会費を一律ゼロにすることなども有効かと見られます。

また、リビング・ウイルの内容そのものに関しても、例えば第3項(いわゆる植物状態に陥った場合)を除外したウイルとか、第3項の「数ヶ月」を本人の意思にあわせて変更するウイルなど、個人の多様な死生観に呼応すべく複数のリビング・ウイルを用意することもまた真剣に検討されるべきと考えます。

尊厳死協会の会員が、早急に一桁増の100万人の大台に乗ることを期待するものですが、上記世論調査の結果から見れば、それは決して法外な期待とは思えません。
会員が100万人になれば、リビング・ウイルは、実質的に法制化されたとほぼ同様の効果を発揮するものとも考えられます。

日本尊厳死協会が固定観念に囚われることなく、斬新かつ戦略的な行動に踏み出されることを切望して止みません。
                         (完)

2006年04月05日

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