Vol.22 「死後生殖」に法の網を!!~ 「生殖補助医療」に関する早期法整備を望む

[その他生命倫理関連]

去る9月29日、わが国で二例目となる「死後生殖認知訴訟」の判決が東京地裁で出されました。

亡夫の凍結精子による体外受精で妊娠・出産した女児を、亡夫の子供として認知するよう求めた母親に対し、地裁は法律上の親子関係を認めず、請求は却下されました。

判決は、その結びとして『今後とも発生が予想される本件のような事態を解決するためにも、「生殖補助医療」に関する早急な法整備が求められるところである』と述べ、立法府・行政府に対し速やかな行動を要請しました。


「死後生殖認知訴訟」の一例目では、2003年、松山地裁が今回と同じく原告の訴えを退けたのに対し、控訴審(高松高裁)は逆転判決を言い渡し、目下上告中です。
「死後生殖」に関する明確なルールが存在しないなか、司法が揺れているのが現状です。

既に生まれた子供、これから生まれてくる子供が不条理な扱いを受けることが絶対無きよう、本件に関する一日も早い法整備が望まれるところです(因みに、先進各国では概ね立法化済みであり、仏・独では、「死後生殖」は禁止、一方米・英は、条件付きでこれを容認しています)

しかし実は、この領域に於ける法整備の遅れは、単に「死後生殖」のみにとどまりません。

わが国には「生殖補助医療」をカバーする法律が全く存在しておらず、あるのは日本産科婦人科学会の「会告」に基づく医師の「自主規制」だけというのが実情です(もっとも究極の「生殖補助医療」とも言える[クローン人間]の製造だけは、他国に先がけ2002年の「クローン技術規制法」により全面禁止となっています)

子供に恵まれないご夫婦の『何とかして子供が欲しい』という欲望はなかなか抑えられるものでは無く、それが生殖補助医療分野における技術進歩の原動力となってきていることは間違いありません。


しかし、個人の強い欲望が、研究者の功名心争いや商業主義と結びつきますと、「自主規制」などは簡単に破られてしまいます。現に、「自主規制」の対象である「代理出産」は、国内でも既に行われてしまいました。


ここは、国民的コンセンサスの下、「生殖補助医療」に関する包括的な法整備がどうしても必要と考えます。

さてその場合、何を禁止し、何を容認するかですが、私はその判断基準のキーワードは『自然の摂理』と『人間の尊厳』であると考えています。

『自然の摂理に背き、人間の尊厳を脅かすような医療技術』は、法律で明確に禁止すべきと考えます。


法律で具体的に禁止すべきものとして、以下を挙げさせて頂きます。

先ず、産科婦人科学会が既に「会告」で禁止をしている次の二つ。

    (1)「代理出産」――不妊夫婦の胚(受精卵)を、妻以外の
              子宮に移植・出産すること(ホストマザー)、
               及び依頼夫婦の夫の精子を妻以外の
               女性に人工授精し出産すること
              (サロゲートマザー)

    (2)「提供された胚(他人の精子・卵子による受精卵)の
       移植による出産」


この二つは、さしたる議論も無く禁止出来るものと考えます。


次に、冒頭の「死後生殖」――これは学会の「会告」による自主規制対象にはなっていませんが、『死人が子供を作る』というのはどう考えても『自然の摂理』に背き、放置すれば、『世代を超えた子供』までが生まれてくる可能性もあるだけに、やはり禁止すべきと考えます。

更に私は、この際「非配偶者間の人工受精・体外受精」に関しても、その禁止に向けて改めて徹底的な国民的議論がなされるべきと考えています。

夫以外の精子による人工授精は、わが国でも50年以上の歴史があり、既に一万人を超える子供が産まれていると言われていますが、『自然の摂理』『人間の尊厳』というキーワードに照らして考えた場合、やはり大きな疑問が残るところです。

『非配偶者間の人工授精による子供は、少なくとも片親の血を受け継いでいるという点で、養子縁組みよりも親しみ易く受け入れ易い』という見方もありますが、長期的に見れば種々危険な問題を内包しており、大いに不安です。

特にこれが商業主義と結びついた場合の倫理的悪影響は計り知れません(因みに、アメリカでは現在150以上の「精子バンク」があり、お金さえ払えば「精子、選り取り見取り」という状況になっています。

また、わが国でも、「エクセレンス」という「精子バンク」がインターネット上で堂々と営業をしています。現下の法律には抵触しませんが、やはり異常としか思えません。


「生殖補助医療」と並ぶ最先端の医療技術の一つに「臓器移植医療」があります。

私は、臓器移植、なかでも「脳死臓器移植」には断固反対であり、自らの主張をこのコラムで既に三回も記しています(vol.4〈臓器移植法の見直しに思う〉、vol.8〈臓器移植法の「改正(案)」に反対〉、vol.19〈「脳死」は「人の死」にあらず!!〉。


そのVol.19、〈「脳死」は「人の死」にあらず!!〉のなかでご紹介しましたが、心臓内科の泰斗、渡部良夫博士は、現行の臓器移植法が国会で審議中の1997年、法案に反対の立場で国会議員の方々に対し次のような鋭い問いかけをされました。

     『あなた方は移植医療の短期的利点――目の前の患者さんが
      何人救える、延命できるーーよりも、それが倫理・社会秩序・
      人類の文化に与える長期的悪影響のほうが遙かに大きいことを
      認識できないのですか?』と。

私は、「生殖補助医療」についても、『それが倫理・社会秩序・人類の文化に与える長期的悪影響』を冷静に十二分に考慮しつつ、その是非を慎重に、しかし早急に判断すべきと考えます。


幸い2003年5月には、厚生科学審議会生殖補助医療部会による包括的な報告書も出来上がっています(「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」)。

私はその内容に全面的に賛成するものではありませんが、それをタタキ台として、広く国民的議論が湧き起こり早期立法化に繋がることを大いに期待するものです。

司法からの悲痛なメッセージとも言える、冒頭の東京地裁要請に応える為にも、立法府・行政府の早急なるアクションを強く求めたいと思います。
                              (完)

2005年10月01日

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