Vol.11 「自殺者3万2千人、出生率1.29」に思う

[その他政治・社会分野]

厚生労働省の「平成15年人口動態統計年計」によれば、同年の我が国の自殺者は32,082人、前年に較べ7%もアップし3年ぶりに3万人の大台を超えました。
(警察庁の統計では34,427人、やはり7%アップ。厚労省の統計は《死亡届》に基づいている為、「自殺」に関しては、警察庁の統計より常に多少下回る傾向にありますが、ここでは厚労省の統計を使用します)

我が国の自殺者は昭和61年(1986年)の25,677人を一つのピークに、以降ずっと2万人台前半でしたが、平成10年(1998年)一挙に前年比35%アップの31,755人に跳ね上がり、爾来3万人前後で推移しています。

平成10年というのは、バブル以降最大不況の年であり、完全失業率はこの年4%の大台に乗り、以降今日まで4~5%での推移となっています。このことからも自殺者数と景気・経済とは密接に関係していることは間違いないところです。


平成15年の全死亡者は101万5,034人、従って自殺者は全死亡者の3.2%であり、死因順位では第6位です。しかしこれを年代別に見ますと、20台・30台では男女共に自殺が死因の第1位を占めています。
これからの日本を担う年代層の死因1位が自殺であるという事実には大いに考えさせられます。

一方、人口10万人当たりの自殺者数(自殺率)は、25.4、これは先進国中第1位、アメリカやドイツの約2倍、イギリスの約3倍という突出ぶりです。


人が自殺を決断・実行するまでには筆舌に尽くし難い魂の葛藤があったに違いありません。
悩み、もがき、苦しみ抜いた末に最後にたどり着いた先が自殺だったのでありましょう。

自殺者お一人お一人の悲痛な魂の叫びに想いを致す時、心が張り裂けます。
また残されたご家族の物心両面のご苦労は想像を絶するものがありましょう。
亡くなられた方の鎮魂と、ご遺族のご平安・ご健勝を心よりお祈り申し上げます。


他方、前記厚労省統計によれば平成15年の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数)は過去最低の1.29。地域別では、東京都の出生率が初めて1を下回り0.9987に落ちるなど、都市部の異常な低さが特筆されます。

前述のように自殺率は先進国中第1位であるのと同様、出生率の低さもまた先進国中トップクラスです。


結局のところ、今の日本は『【自殺したくなる】ような社会』、『【子供を産みたいと思わない】ような社会』になってしまったと言っても過言ではありません。
このままでは、我が国の行く末が、あらゆる意味で極めて憂慮されるところです。


もちろん自殺対策・少子化対策には、政府も、あるいは民間もこれまで種々尽力してきているところです。
しかしその割には実効が挙がっていない状況下、私はこの二つの問題に対して「会社」がもう一段強い関心と問題意識を持ち、大胆に独自の諸施策を展開することを提唱したいと思います。


5,000万人以上の国民が、いわゆる「会社員」として「会社」に雇われている訳ですから、自殺者の大半もまた「会社員(含 元会社員)」あるいはそのご家族であり、子供を産み育てる中心もまた「会社員」です。

そう考えれば、「会社」が「自殺」「少子化」に対し、もう一歩踏み込んで対応をすれば、事態は少しは良い方向に動き始めるものと確信致します。


幸い我が国でも「CSR(企業の社会的責任)」という考え方が着実に市民権を得つつあります。

CSRのいわばグローバルスタンダードは、労働・人権・環境の三つをキーワードとする国連の『グローバルコンパクト(GC)』の締結と言えましょう。

しかしそれに加えて、その時々、それぞれの国に固有の重大な社会問題に対して、企業が真摯に真正面から取り組んで行くこともまた重要だと考えています。

『GC プラス ローカルアルファー』が「一つ先のCSR」として各国に根付いていくことを大いに期待するものですが、そういった観点で、我が国企業が「自殺」と「少子化」に対し、先ずは自らの手の届く範囲内で、より大きな社会的責任を果たして行くことを切望してやみません。


具体的には、各企業が、『社員や家族から【自殺者が出ない】ような会社』、『社員や家族が【子供を産みたいと思う】ような会社』の実現に向けて、知恵と力を総動員することを願うものですが、先ず自殺対策、これはつまるところ会社と社員・家族の関係、上司と部下の関係、同僚間の関係を『血の通った』ものにすることに尽きると思っています。

「社員のプライバシー尊重」はもちろん重要ですが、あまり行き過ぎますと会社が単に金儲けの為だけの『冷たい集団』になってしまいます。

『社員みな家族』という共同体意識を熟成深化させながら、平行して、例えば社員・家族専用の『いのちのホットライン』の設置など、自殺予備軍への『社内セーフティーネット』をいかに円滑に構築するかでありましょう。


一方、少子化に対しては、現行の育休関連諸制度の大幅拡充はもとより、例えば「能力主義・成果主義」という美名のもと、このところ撤廃あるいは減額になってきている『配偶者手当』や『子供手当』を思い切って高額に戻すとか、あるいはまた『社内・工場内保育施設』あるいは近隣企業共同で例えば『大手町合同託児所』といったものをいっせいに整備する等といったことも効果的でありましょう。
(尚、社内保育施設は、既に東京都心でも、日本郵船社内には100平米超の「郵船チャイルドケア 丸の内保育室」が稼働中です)


CSRと一体となってSRI(社会的責任投資)という概念もまた徐々に我が国市場に定着しつつあります。

 「あなたの会社では社員・家族に対しどういう自殺対策を取っていますか?」 
 「あなたの会社では昨年一年間何人の社員・家族が自殺しましたか?」
 「あなたの会社では社員に対しどういう少子化対策を取っていますか?」
 「あなたの会社の社員は平均何人の子供を持っていますか?」

そんな質問もするSRIファンドが一日も早く現れるのを大いに期待しています。
                              (完)

2004年08月01日

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